雪の終わる季節
「みさき〜っ!」
「あっ。雪ちゃん?」
「ねえ、私も部活終わったし、なんか食べに行こうか?」
「ううっ…。ごめね、雪ちゃん。今日は約束があるんだよ」
「ほほう…。私の誘いを断るなんて……。さては、男ね?」
「ゆ、雪ちゃんっ!!」
「うり、うり、うり〜っ!」
「あ〜ん。雪ちゃんがいじめるよ〜〜〜っ」
「あははっ…。ま、冗談はこのぐらいにして……浩平君だったけ?よろしく言っておいてねっ」
「ゆっ、雪ちゃんっ!誰も浩平君だなんていってないよ〜っ!!」
「いーから、いーから♪」
「も〜〜〜〜っ!!」
階段を上がり屋上へ出る。
屋上の風はまだ少し冷たいな。もうすぐ春なのに。
…この学校とも、もうすぐお別れね。
フェンスに寄りかかり、下を見下ろすと、みさきの家が見える。
……みさきとつき合って何年になるかしら?
みさきは変わったわ。いいほうに。
いつも、笑ってはいたけど………心では怯えていた…。
だから、私はみさきの力になってあげたかった。
……そう。みさきが光を失ってから。
みさきが楽しみにしていたドラマの最終回。
みさきが考えていたのとは違う結末だった。
でも、それはそれで面白かった。
みさきにも教えてやろうと思って電話をかけた。みさき、楽しみにしてたものね。
でも……電話に出た相手は別人だった…。
…ううん。みさきには違いなかった。
ただ……私の知っているみさきじゃなかっただけ。
その時になって初めて知った…。
光を失うということがどういうことなのか。
「最終回おもしろくなかったね。みさきが考えてくれたお話しの方がおもしろかったよ」
そして、わたしが口にしていたのは、考えていたのとは全然違う言葉だった。
………みさきが光を失ったのを知らない振りをして。
あの時から。
あの時から、みさきの力になろうと思ってきた。
…でも、みさきのためじゃなかった。
私が昔のみさきを取り戻したかっただけ…。
私のため。
だから……私じゃ駄目だった。
みさきは昔の笑顔を取り戻した。
でも、それは私のための笑顔じゃなかった。
もう、私はみさきの側にいなくてもいいのかも知れない。
「お役御免……って…か…」
がちゃ。
突然、後ろで屋上の扉が開いた。
「よう。大福じゃないか」
「だっ、だれが大福よっ!私は雪見っっ!!アイスなんかと一緒にしないでよねっ!!」
全く、失礼な奴。
「あんた、まだ学校にいたの?」
「おい、おい。クラスメートをあんた呼ばわりとは酷いんじゃないか?」
「あんたなんか、あんたで十分よっ!」
「日本語になってないぞ?」
うるさい奴ね!
「お前、まだ学校に残ってたんだな」
「あんただって、まだ残ってるでしょうがっ!」
「まあな…。…で、今日は川名は一緒じゃないのか?」
何気ない一言。
別にいつもみさきと一緒にいるわけじゃない。
けど……今はその言葉が胸に痛い……。
「そういえば、あいつ明るくなったよな」
でも……それは、私の力じゃない…。
「…なにいってんの?みさきはいつも明るかったでしょうに」
そう……本当は明るくなんかなかった…。
「…俺にはあんまりそうは見えなかったけど?」
それは……私じゃ………駄目だったから。
「……ぁ……」
「…あ?」
「…あ……あんたなんかにっ!あんたなんかに何が分かるっていうのよっ!!」
「お、おいっ、なんだよいきなり…?」
「私はみさきの幼なじみよっ!ずっと一緒にいたんだからっ!!ずっと……」
目頭が熱くなる。
視界がゆがむ。
なんで、こんな時に…こんやつの前で…。
…泣いてなんかやるもんか。
「………」
でも……止まらない。
涙がこぼれそうになる。
「……深山……」
「なっ!!」
突然、抱きしめられた。
「なっ、なにするのよっ!?」
「……なあ……つらいんだったら泣けよ…。こうすれば見えないからさ…」
「つらくなんかっ!…つらくなんか………ないわよ…」
……あったかい。
「…俺が子供の頃…知り合いのお姉さんが言ってくれたんだ…。『本当に悲しいときは泣いたって構わない』…ってな」
「…うっ…」
みさき…私の幼なじみ……力になってあげるって…思ってたのに……でも…でも……。
「うっ………うわああああぁぁぁーーーんっ!!」
…雪。
…雪は好き。
真っ白で…やわらくて………儚い。
ずっと雪を見つめて暮らしてきた。
そして、雪の終わる季節がきた。
でも、それは喜ぶべき事だ。
雪が終われば春が来るのだから。
雪の終わる季節。
それは輝く季節の始まり。
白い記憶 〜序 章〜 を読む
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