そして紡がれる物語
丘の上に一匹の狐がいた……。
草木はその装いを変え、命を己の内へ溜め込む。
秋も終わり、冬が訪れていた。
そんな丘だ。
そして、その丘からは町が一望できた。
狐は眼前に広がる景色をじっと見つめている。
ひたすら…。
そう、ひたすら………待っていた。
一人の人間を。
こうして待ち続けてどのぐらいになるのだろうか?
日が昇り…そして沈む。その繰り返し。
ずっとその繰り返しだった。
待ち始めた頃には子狐だった狐も、いつの間にか立派な狐へと変わっていた。
それでも、見下ろす景色やこの丘は変わっていない。
そして…待つという行為も。
しかし、狐は怒っていた。
その人間が現れたら、思いっきり噛みついてやろうと思っていた。
ずっと待たされたのだ。そのぐらいは当然だ。
そう思っていた。
そして、それで許してやって……後は思いっきり遊ぼうと。
ザッ…。
「っ!!」
背後に聞こえた足音。
力一杯に振り返る。期待の眼差しで。
「わっ……狐さんですね」
「……」
だが、その期待も瞬時に失望へと変わる。
そして、再び町を見下ろす。
狐の背後に現れたのは一人の少女だった。
それは狐が待っていた人間ではなかった。
「あの…」
その少女は狐の背後でおろおろとしていた。
「狐さん………側に…行ってもいいですか?」
…どうやら側に来たいらしい。
勝手にすればいい。自分には関係の無いことだ。
狐はそう思って、振り返りもせず町を見下ろし続けた。
「わあっ……町が全部見えますね」
気がつくと、その少女は狐の隣に立っていた。
その少女は狐が逃げないのを了承と受け取ったようだ。
「狐さんも町を見てたんですか?」
………うるさい。早くどっかへ行ってくれないか?
そう狐が思ったとたん。
少女は掛けていたストールを地面に敷き、腰を下ろした。
「………」
どうやら長居をするつもりらしかった。
「あ、狐さん、あそこが私の家なんですよ」
その少女は町の一角を指さして狐に話しかける。
「あそこには、お父さんと…お母さんと…」
「………」
…だから、どうしたと言うのだろう?
「お姉ちゃんが……………」
…狐はうんざりとし、やはり立ち去ろうか考え始めた。
だが、その言葉を最後に、少女は口を噤んだ。
「………」
…ようやく静かになった。
狐はそう思い、また町に心を移した。
「………ぅ………くっ………」
だが、今度はなにやら顔を伏せて肩を震わせている。
どうしたものかと思い、狐は少女の顔を覗き込んだ。
「…ひっく………狐…さん?」
…その少女は泣いていた。
「…慰めてくれるんですか?」
少女はそう言いながら、狐の咽の辺りを撫でた。
そんなつもりはない。だけど…。
狐は少女へと寄り添って座る。
体毛を掻き分ける少女の冷たい手が…。
懐かして………優しくて………心地よかった。
「狐さん……私は次の誕生日まで生きられないそうなんです……」
手を休める事なく狐に告げる少女。
「でも……私はまだ死にたくないです」
そう言いながら町に目をやる。
「私にはまだやりたい事が沢山あるんです」
そして、ぽろぽろと涙を零す。
「だから……もう少しだけ頑張ってみます」
それでも…狐に笑って見せる少女。
「私は弱いから……自分で死を選ぶかも知れないけど……」
「強く願わないと何も叶わないから」
そう言って、少女は立ち上がった。
「…狐さん、慰めてくれてありがとうございます」
そして、その少女は来た時と同じように、突然去っていった…。
「………」
あの人間はなんだったんだろうか?
狐には少女が何をしに来たのか、皆目検討がつかなかった。
ただ……。
『強く願わないと何も叶わないから』
少女の言葉だけが頭に残った……。
…………。
………。
……。
秋も終わり、冬が訪れていた。
草木はその装いを変え、命を己の内へ溜め込む。
「………私は……………誰?」
……丘の上に一人の少女がいた。
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