おいでませ♪おいでませ♪みさおちゃんっ!!


「…浩平君。みさおちゃん逢いたい?」
「え?」
放課後。
屋上で、みさき先輩と『ぼぉーーーっ』と夕焼けを眺めていると、突然、みさき先輩がそんな事を言い出した。
「…みさき先輩。それってどういう意味?」
「そのまんまだよ」
みさき先輩はいつものように、やさしい笑顔でそう言った。
「……」
以前、みさき先輩には、妹がいたという話しをしたことがあった。
………死んだということも。
みさき先輩から目を離し、再び夕焼けに目をやる。
絵の具では決して表現のできない、透きとおった感じの夕焼けが視界いっぱいに広がる。
不思議だが、どうやらみさき先輩には、みさおの事を考えていたのがわかってしまったらしい。
…みさお…。
逢いたくない…といえば嘘になる。
「でも………みさおは死んだんだ」
みさき先輩には視線を戻さず、夕焼けを見るめながらそう呟いた。
…それが、今の本当の気持ちだった。
「うん。だから、みさおちゃんの魂を呼び出してあげようと思って」
「……………はい?」
思わずみさき先輩のほうを見る。
今、なんか妙に違和感のある台詞を聞いたような…。
「今日は降霊に適した日なんだよ」
「……」
みさき先輩はやさしい笑顔を崩さずにそう言った。
本気………のようだ。
「どう?逢いたい?」
本当にそんな事が可能なんだろうか?
まさか、みさき先輩に限って俺を驚かして楽しむなんて事はないと思うが。
…俺は幽霊なんて信じてない。
でも、みさき先輩の笑顔を見ているうちに…。
「………逢いたい」
…俺はそう呟いていた。



「…しかし、みさき先輩がそんな事が出来たんなんて驚きだな」
俺達は3年の教室に来ていた。別に場所はどこでも良かったそうなのだが、みさき先輩が必要な道具が教室にあると言ったので、そのまま教室でやることになったのだ。
「うん。がんばったよ。厳しい修行だったけどね」
「……」
…いったい、どんな修行をしたんだ?
「それにほら、私って一応、先輩だし、見た目はお嬢様らしいから」
「………」
妙に納得できるようなできない根拠に、俺はただ黙るしかなかった。
「浩平君。じゃあ、この蝋燭に火をつけてもらえないかな?」
「ああ。わかった」
みさき先輩は自分の席に座り、机の中から1本の蝋燭を取り出すと俺に差し出した。
俺はみさき先輩の前の席の椅子を反対に向け座ると、その蝋燭を立てて、懐から『チャッカマン』を取り出し、蝋燭に火をつけた。
『チャッカマン』というのは、長いノズルのついた、引き金のあるライターだ。
こんなこともあろうかと、常日頃から持ち歩いているものの一つだ。
薄闇の教室に蝋燭の灯がともる。目の前には長い黒髪のみさき先輩。なかなか幻想的だ。
「降霊会の雰囲気が出てるかな?」
みさき先輩が笑いながら、俺に聞いてくる。
「いや。誰がどう見ても、クリスマスを楽しんでるようにしか見えないと思うぞ」
俺も笑いながら答える。
「そうかな〜?」
一本の蝋燭を挟んで、俺達は笑いあった。どうやら、みさき先輩もこの答えを期待していたらしい。
「…じゃあ、始めるよ」
しばらく笑いあった後、みさき先輩が真面目な声でそう告げた。
「ああ…」
みさき先輩が蝋燭の火に軽く両の手をあてる。
背筋を伸ばし、目を瞑る。
「……」
…もしかしたら。そんな気持ちが俺の中に芽生えた。
だが、次の瞬間。
「……ラーメン………カツカレー………天ぷらうどん………親子丼……」
「なっ!?」
みさき先輩はいきなり食べ物の名前を次々と口にし始めた。
……。
………。
…………。
い、いや。おそらく精神集中の言葉なんだろう。……………多分。
みさき先輩は次々と食べ物の名前を口にしていく。だんだんと口元が緩んでいくのが少し不安だ。
「…はぁ〜〜〜………」
…どうやら、佳境に入ったようだ。
「おいでませ♪おいでませ♪みさおちゃんっ!!」
みさき先輩は、ちょっと気の抜けるようなキメゼリフを口にすると、ガクッと首が前に倒れた。
「……みさき先輩?」
「……」
返事がない。どうしたんだ?
「……」
「……」
もしかして…?
「……みさお?」
「なに?」
突然、みさき先輩が顔を上げて応える。
こっ、これは……もしや、『口寄せ』というやつなのかっ!?
「みさお……みさおなのか!?」
「うん。なんとなくだけどね」
なっ、なんとなくぅーーーっ!?
「………み、みさお。………元気だったか?」
「うん。今朝も食パン一斤食べて来たよ」
「……」
これは………どう考えても、みさき先輩だよな。
「お兄ちゃんは元気?みさおはそれだけが心配だよ」
「……」
しかし、みさき先輩にはふざけてる様子は少しもない。
「お兄ちゃんが元気ないと、みさおは悲しいよ。だから、元気出してね」
むしろ…。
「…ああ。わかった」
みさき先輩……。
「…ありがとな」



「浩平君。どうだった?」
「ああ。ちゃんとみさおに逢えたぞ。すごいな、みさき先輩」
みさき先輩は『みさお』がいる間のことは、覚えてないそうだ。
俺は『みさお』と化したみさき先輩としばらく話しをしていたのだが、俺が「好きな人ができた」と言ったとたん、突然「も、もう、行くね」とか言って、みさき先輩が目を覚ましてしまったのだ。
「えへへ…少しは役にたったかな?」
少し照れながら、そう答えるみさき先輩。
「ああ。ありがとう。みさき先輩」
「うん。浩平君が元気なってなってくれて嬉しいよ」
満面の笑顔。そんな、みさき先輩の笑顔を見ていると、本当に元気になってくる。
…嬉しかった。本当にみさおに逢えたかどうかなんて問題じゃない。
ただ、嬉しかった。みさき先輩の気持ちが。本当に相手の事を想ってくれる気持ちが。
だから……みさき先輩に逢えて……この人を好きになれて……俺は幸せだと思う。
「すっかり遅くなっちゃったな。みさき先輩。家までおくるよ」
「うん」
そして、俺はみさき先輩の手を取り、教室を後に…。


「…よかったね。おにいちゃん」


「えっ!?」
教室を出ようとした時、突然、背後から声が聞こえ、思わず振り返る。
「みさき先輩……今、なんか言った?」
「?…ううん」
キョトンとした表情で俺を問いに答える先輩。
…今の声…。

遠い記憶。
懐かしい日々。
幸せのかけら。
いつまでも…永遠に続くと思っていたあの頃。

そんな、遠い記憶に聞いたことのある声だった。
「…どうしたの?浩平君」
心配そうに俺の返事を待つみさき先輩。
「……いや。なんでもない。…さあ!帰るか!!」
「うんっ!」

俺はみさき先輩の手を強く握ると、教室を後にした。
みさき先輩も俺の手を強く握り返してくる。
先輩の家までの短い道のり。
今は、まだそこまでだ。
でも、いつかは……ずっと、この手を握りしめて生きていきたいと思う。
もちろん、そうなるにはまでには、いろんな障害が待ち受けてるだろう。
だけど、必ず出来ると信じている。



みさおも………見守ってくれているから。






SSリストへ戻る



TOPへ戻る