或いはこんな日常
カシャッ!
「ほらっ、起きなさいよーっ」
眩しい光が瞼を射す。
「う〜ん…あと、3ミリバールだけ寝かせてくれ…」
「………ほらっ、3ミリバールたったよっ」
「いや、まだ3ヘクトパスカルしかたってないはずだ…」
「一緒だよ?」
「ぐはっ!」
…そ、そうなのか?なら仕方があるまい。起きるか…。
「ふぁ…」
瞼を擦りながら、目をあけると見知らぬ美少女が立っていた。
「な、なぜに、見知らぬ美少女が朝一番にオレを起こしに来るんだっ!?」
「美少女って……確かにそうだけど、お兄ちゃんて、もしかしてシスコンなの?」
にっこりと笑いながらも、見知らぬ美少女……妹のみさおが、少し後ずさりして距離をとる。
「バカッ!そんな訳があるかっ!!その証拠に、お前はまだ清い体だろうがっ!?」
「………」
なぜか、無言で更に後ろに下がるみさお。
「…こらこら、本気にするな。冗談だ」
「………じゃ、じゃあ、お兄ちゃんも起きたみたいだし、私は先に学校行くねっ」
バタンッ!
勢い良くドアが閉められ、猛スピードで階段を駆け下りて行く足音が聞こえる。
「………オレって、そんなに信用がないのか?」
「おはよう、浩平」
「あ、お兄ちゃん」
「おはよう、二人とも」
「通学路の途中まで来ると、妹のみさおとマイスイートハニーの瑞佳が一緒に歩いていた」
「わっ。あ、朝何言ってるんだよっ!浩平っ!!」
「そうは言いながらも、嬉しそうに頬を赤らめる瑞佳…」
「だから、聞こえてるよっ!!」
瑞佳は真っ赤になりながら怒っている。
「まあ、冗談だが…」
「はぁ…」
そして、なんともやりきれないようなため息をつく。
「くすっくすっ…」
そんな俺たちのいつも通りのやりとりを見て、みさおが笑っていた。
「…浩平もいつもいつもこうだと、みさおちゃんも大変だよね」
「うんっ。早く瑞佳お姉ちゃんがお嫁さんに来てくれないと、私、恋人もできないよ」
「うわ〜〜〜っ!み、みさおちゃんまで何言ってるんだよ〜〜〜っ」
助け船をみさおに求めた瑞佳だったが、どうやら、助け船から突き落とされたようだ。
流石はオレの妹だけの事はある。
「…なあ、瑞佳。そんな所で1人で踊ってると、遅刻するぞ?」
「え?え?」
瑞佳がはっと気がつくと、オレとみさおは既にずっと先の方を歩いていた。
「わっ、まってよっ!二人とも〜〜〜っ!!」
「浩平っ」
「…んっ?」
昼休みになると、瑞佳がオレの席へとやって来た。
「浩平は午後はどうするの?私とみさおちゃんはパタポ屋に行こうって約束してるんだけど、浩平も一緒に行く?」
「おいおい。午後の授業をサボってか?」
「え?」
「やれやれ…。二人がそんな不良だとは知らなかったぞ」
オレはため息と共に肩を落としながら瑞佳に言ってやった。
「バカはお前だ」
だが、オレの学生らしい発言を後ろから否定する声が聞こえた。
「住井か…」
振り返ると住井が呆れたような顔で立っていた。
「美男子星人のこのオレをバカ呼ばわりするとは、一体どういう了見だっ」
オレが住井に食ってかかると、住井は「やれやれ…長森さん、このバカに話しってやってくれないか?」といった視線を送る。
つられてオレも瑞佳に目をやると、瑞佳が申し訳なさそうに口を開く。
「浩平……今日は土曜日なんだけど……」
「………」
…意外な盲点だった。
「という訳で、バカはお前で間違いない訳だ」
「くっ…」
住井が勝ち誇ったようにオレを見下す。はっきり言って屈辱だ。
「さあ、早く支度しろ、折原。行くんだろ?」
「…なんでお前が言うんだ?」
「みさおちゃんも行くんなら、俺も一緒に行くぞ」
「断るっ」
そんな茜の前にワッフルを差し出すような真似ができるかっ!!
「ふふっ……もう、みさおちゃんには了解は取ってある」
「なっ、なにぃっ!?いつの間にっ!?」
我が親友ながら、時々、怖ろしい奴…。
「さあ、行こうか?」
ポンっと住井がオレの肩に手を置く。
「がはっ!!」
だが、その瞬間。住井は雷にでも打たれたように、その場に崩れ落ちた。
「すっ、住井君っ!?」
「どうしたっ、住井っ!!」
オレは、手にしていたスタンガンを素早く上着のポケットにしまうと、住井を抱き起こした。
「折…原……き…さ……ま…」
ガクッ!!
それだけ言い残すと、住井は静かに息を引き取った…。
「浩平っ!?住井君、大丈夫なの!?」
「…いままで秘密にしていたが、住井は『ぽっくり病』という持病を患っていてな……こうして時々倒れる事があるんだ」
「しばらく休めば元通りになるんだがな」
「そう…じゃあ、今日は住井君は無理だね」
「ああ…今も『折原、貴様らだけで楽しんでくれ』って言ってたし」
「残念だよね」
「…瑞佳お姉ちゃん、いる?」
そうこうしていると、みさおが俺たちの教室にやってきた。
「うんっ。じゃあ、行こっか。結局、浩平はどうするの?」
「まあ、暇だし付き合ってやるか」
「お兄ちゃんが行くんなら、私はお邪魔じゃないの?」
みさおがにやにやしながら聞く。
「バカッ。もともとお前と瑞佳の約束だろうが。変な気を回すな」
俺たち三人は、住井の亡骸を後にして商店街に向かった…。
「あ、瑞佳お姉ちゃん、あの服、お姉ちゃんに似合うんじゃない?」
「う〜ん…ちょっと派手じゃないかな?」
「そんな事ないよ、お兄ちゃんもきっと喜ぶよ」
「…なんでオレが喜ぶんだ?」
「そうだっ!お兄ちゃんにプレゼントして貰ったら?」
「それなら…」
「……こらこら。勝手に決めるなっ」
……代わり映えしない日常。
「あはは〜。いいよ、やっぱり私には似合わないよ」
……まだ恋人と呼べない幼なじみ。
「そんな事ないよね?ね、お兄ちゃん♪」
……騒がしくも可愛い妹。
「…ま、まあな…」
「…あれ?浩平…?」
「…お兄ちゃん?なんで…」
…………。
………。
……。
「………なんで、泣いてるの?」
「………」
頬を伝う涙。
「……夢を……」
胸がせつない。
「…夢を見ていたんだ…」
何も起きないはずの日常。
「…そう」
彼女はそう言って、オレの頭をその小さな体で抱きしめた……。
「やり直せるよ。何度でも」
「………」
「ここには時間はいくらでもあるから」
「………ああ…」
…そして繰り返される日常。
………永遠に。
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