この泥棒猫っ! あたしのお腹にはこの人の子供が居るのよっ!


 と。すずねえが言った。
「……」
 知らなかった。
 すずねえは有袋類だったのか。実はオーストラリア出身だとはな。
 しかし、今、「この人の」とか言っていたな。
 いったい、誰の子供なのだろうか?
 ……右を見る。
 カナ坊がいた。
 なぜか、照れたような笑いをしている。
 ……左を見る。
 カナ坊のオカンがいた。
 何事もなかったかのようににこにこと笑っている。
 ちなみに、場所はカナ坊の家の前。
 変なシャンデリアとか、得体の知れない地下室とか、無駄に派手なバルコニーとか、天津甘栗とか、モンブランとか、マロングラッセとか、栗まんじゅうとか、栗きんとんとか、栗おこわとか、栗ジュースとか、栗ゼリーとか、栗の天ぷらとかがある家だ。
「で、すずねえは預かっている子供を返しにきたのか?」
 もしかしたら、カナ坊の妹(弟は却下)のことかもしれない。
 確かにカナ坊の妹なら、お腹に入るぐらい朝飯前だろう。
「お姉ちゃんとオミくんの子供だぞっっっっっっっっっっ!!」
「なにいぃっ!?」
 それはナニか? 俺とすずねえの愛の結晶が、すずねえのお腹の袋の中にいるということか!?
 っていうか、すずねえが有袋類かどうかはとりあえずおいといて、俺とすずねえの子供だってぇ!? 
「靖臣くん、やっぱり桜橋先輩とそんな仲だったんだ……。不潔じゃないカナ!!」
 カナ坊は沈んだ顔をしたかと思うといきなり怒りだした。忙しいやつだ。
「待てっ! 俺はまったく身に覚えがないぞっ!?」
 ……夢の中と想像の中以外は。
「お、お姉ちゃん、もう用済みかな……そうよね……お金持ちのお嬢さんと結婚するのに……お姉ちゃんがいたら……」
 すずねえが目に見えて凹む。
「靖臣くん、酷いんじゃないカナ!!」
「……」
 怒られたですよ?
「あらあら。駄目ですよ、昔の女はきちんと精算しないと」
「……」
 そういう問題じゃない。
 そもそも、カナ坊と劇の練習をしながら家まで送って、玄関でカナ坊のオカンと偶然出会っただけでなぜこんな話になるんだ。
「というか、すずねえ。なんでこんな所にいるんだよ」
 とりあえずあからさまに話題をかえてみた。
「お姉ちゃんはオミくんのことがすっっっっっっっっっっごく心配だから、四六時中あとを尾行(つけ)てるんだぞっ♪」
 人差し指を立てて、さも当然のように嬉しそうに言われた。
「……」
 それは、ストーカーっていうんだぞ、すずねえ。
「とにかくっ! お姉ちゃんはこんな女なんて、認めないぞっ」
 なるほど。ようは、それか。
 すずねえは俺とカナ坊が付き合ってると勘違いしてるみたいだ。
 それで『すずねえチェッカー』にカナ坊が引っかかったという訳だな。
「わ、私と靖臣くんは、そんなんじゃ……ない……カナ?」
 カナ坊が俺の制服の右袖を掴んでそう言う。
「……」
 おいおい、カナ坊。そんな風に頬を染めて、何かを期待したように俺を見るな。
 なんて答えたらいいかわからないじゃないか。
「愛は障害がある程燃え上がるものなんですよね」
 カナ坊のオカンが俺の制服の左袖を掴んでそう言う。
「……」
 オカン……なぜ、そんな風に頬を染めて嬉しそうに俺を見る?
 というか、掴むな。袖を。
 ……しかし、困ったな。
 このままでは、俺は子持ちでロリコンの間男になってしまう。なんとか状況を打開しなければ。
 よし。ここは、いつものように思いつきで乗り切ろう。
「すずねえ……」
「ん、なぁに? 子供の名前、もう決まったの?」
「実はすずねえの子供は、すずねえがUFOにさらわれた時の子供なんだっ!」
「UFOにはオミくんが乗ってたぞっっっっっっっっっ!」
「……」
 衝撃の事実だった。
 そうか。俺は宇宙人だったのか。タイトルは『宇宙(コスモス)の宇宙(そら)に』。
「……」
 なんか、ますます収集がつかなくなってしまった。
「あの……桜橋さんとおっしゃいましたよね?」
 そう思った時。
 カナ坊のオカンがすずねえに話しかけた。
 そうだな。ここはひとつ、大人に上手くこの場を収めてもらおう。
「……それで、慰謝料はいくら出せばよろしいんでしょうか?」
「金かっ!? 金で片づけるのか!?」
 このブルジョアがあぁっっ!!
「うっ……その……お金の問題じゃなくて……」
「……」
 すずねえ……なぜそんな弱気に?
「とりあえず、今日の所はこれでお引き取り頂けませんか?」
 カナ坊のオカンは、そう言ってすずねえにやけに厚い封筒を渡した。
 すずねえは、さりげなく(バレバレだが)封筒の中を覗き込む。
「……オミくん。お姉ちゃんは先に帰るから、オミくんはゆっくりしていいんだぞっ♪」
「なにいぃぃっ!?」
 買収されたですよ!?
 すずねえは厚い封筒を大事そうに胸にしっかりと抱いて足早に去っていった……。
「これで円満解決ですね」
「そ、そうなのカナ? そうなのカナ?」
「……」
 何も解決してないような気がする。



「……という訳だから、若菜。今日から、靖臣さんのことはお父さんって呼ぶのよ?」

「「なぜそうなる(カナ)っっ!!」」






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