校内ミスコンテスト 〜ムフフ♪編〜
その日、学校は野望の地と化した。
住井が掲示板に「校内で最も裸エプロンの似合う女性に『ミスONE』の称号と賞金50万を与える」との掲示をしたためである。
ある者は名誉のため、またある者は金のため、次々と熾烈な戦いへと………身を投じることはなかった。
「困ったな…」
住井は自分の席で腕組みをして悩んでいた。
企画を校内に掲示をしたのはいいが、誰も参加者がいなかったのだ。
はっきり言って、当然である。
というより、よく学校側からストップがかからないものだ。
しかし、住井はたとえ非合法でも強行するつもりだった。
なぜなら、とある事情(『かせぐの』参照)により、金がまったくなくなってしまい、今回のミスコンテストで荒稼ぎを目論んでいたからだ。
「…そうだ。奴なら…」
そう呟くと、住井は自分の席をたった。
「折原」
「ん?なんだ、住井?」
「貴様の腕を貸してもらおうっ!!」
「…はい?」
住井は浩平の席へと来ていた。
当然だが、浩平にはなんのことか分からない。
「貴様も既に知っていようが、今回の校内ミスコンテストにはエントリーする者がいない…」
悔しそうに右拳を握りしめて力説する住井。
「…だろうな」
そんな住井を冷ややかな目で見つめる浩平。
「そこで、お前に何人かエントリーするように説得してもらいたいのだっ!!」
まあ、つまりはそういう事らしい。
「しかし、オレとて見てはみたいが、オレが説得したぐらいで、裸エプロンになるような奴はいないと思うぞ?」
普通そうである。
「…もちろん、ただでとはいわん」
住井の目が妖しく光る。
「…なにっ?」
浩平の目も妖しく光る。
「今回のミスコンテストの見学には、入場料をとるつもりだ」
「…そうなのか?」
「男ならば金を払ってでも見たいと思うのは当然だろう…。例え入場料を1人1万としても必ず払うっ!!」
「た、確かにっっ!?」
納得する浩平。確かに男なら当然だ。
「我が校の生徒は約1000人。その半分の約500人が男だ…。つまり、優勝賞金の50万を差し引いても450万は残る計算だっ!!」
制服が4着買える値段だ。
「もし、エントリー者を説得してくれたのなら…1人頭5万出そうっ!!」
「ひ、一人頭5万っ!!」
「そうだっ!!仮に6人なら30万になるっ!!」
なぜに6人と言うっ!?ネタがバレてしまうではないかっっ!!
「さ、さんじゅうまんっっ!!天文学的な数字ではないかっ!?」
浩平の頭ではそんなもんだろう。
「これも『言葉の魔術師』と言われた、お前を見込んでのことだ。……引き受けてくれるか?」
「水臭いぞ、住井っ!オレたちは親友ではないかっ!!」
「そう言ってくれると信じていたぜ、親友っ!!」
ガシッと拳と拳をぶつけ合う二人。
そこには、確かな『友情』があった……。
朝。通学路。
「なあ、長森…」
「なに?浩平」
浩平は瑞佳と一緒に学校に向かっていた。珍しく歩いてだ。
「突然、だがお前の裸エプロンが見たいっ!!」
いきなりかいっっ!!
「え゛え゛え゛え゛ぇぇぇ〜〜〜〜〜っ!!」
驚く瑞佳。
「わっわっわたしだよっ!?わたしなんかでいいのぉっ!?」
突然の事に動揺している。
「…長森。お前じゃなきゃ駄目なんだ」
キザなセリフを吐きながら、海より深い瞳で、じっと瑞佳を見つる浩平。
「…こ、浩平…」
瑞佳は真っ赤になりながらも、浩平から目を離すことができない。
「…長森…」
とどめとばかりに、そっと瑞佳の手を握る浩平。
瑞佳は茹でタコのように真っ赤になっている。
「……いいだろう?」
「う、うん……」
思わず頷いてしまう瑞佳。
一応、朝の通学路である。
「よしっ!じゃあ、今度のミスコンテストに参加してくれ」
「う、うん……」
またもや、思わず頷いてしまう瑞佳。
瑞佳は完全に舞い上がっていた……。
授業中。教室。
(…茜。ちょっといいか?)
(…なんですか?)
アイコンタクトで会話する浩平と茜。
(実は、今回のミスコンテストに参加して欲しいんだが…)
(嫌です)
即答である。
(ま、まてっ!考えても見ろ!賞金の50万があれば、あのぬいぐるみが買えるではないかっ!?)
(……)
ちょっと考えてしまう茜。
(山葉堂ワッフルだったら、いくつ買えることか…いや、毎日好きなだけ食べられるだろうな。うん)
(………)
茜は迷っている。
あと一押しと言った所だろう。
(茜……)
(…なんですか?)
(オレは茜だったら優勝できると信じているっ!!)
浩平は親指をグッと突き出し、歯を、きらり〜ん☆と光らせた。
爽やかさ全快だ。
(…………)
茜の頭の中を、ぬいぐるみとワッフルがぐるぐると回る。
(…出ます)
茜は計算高かった……。
休み時間。教室。
「七瀬。お前は今回のミスコンテストには出ないのか?」
「一体、誰があんなもんに出るのよっ!!」
いや、まあ、その通りである。
「そうか…じゃあ、優勝して、真の乙女の座を手にするのは、長森か茜か…」
七瀬に背を向け、わざと聞こえるように呟く浩平。
「え…?」
「どっちに投票しようかな〜〜〜…まあ、七瀬は出ないんだから、乙女とは関係ないけど」
浩平はそのまま教室から出ようとした。……あくまでもゆっくりと。
「ま、待ってっ!二人ともほんとーーーに出るのっ!?」
信じられない、と言った顔で浩平を呼び止める七瀬。
「ん?そうだが?」
背中を向けたまま肯定する浩平。
七瀬からは見えないが、顔は笑っている。
「……」
七瀬は迷っていた。
誰も出ないと思ったから、わざわざ自分が恥ずかしい格好をする必要はないと思っていたのである。
だが、乙女の座が他人の手に渡るとなれば話しは別だ。
「…出たら私に投票してくれる?」
「もちろんだともっ!!真の乙女は七瀬の他にはいないじゃないかっ!!」
クルリっと七瀬の方を向き、両手を広げながら力説する浩平。
はっきり言ってかなりうさん臭い。
「………出るわっ!!」
七瀬は乙女魂に火がついた……。
昼休み。食堂。
「…みさき先輩。今日もそんなに食べるのか?」
「育ち盛りだからね」
浩平はみさきと食堂でお昼を食べていた。
主にみさきがだが。
「みさき先輩…」
「なに?」
手を止めることなく浩平に答えるみさき。
「深山先輩に借金はどのくらいあるんだ?」
「う゛っ……」
ピタッとみさきの手が止まった。
結構、ショックなセリフだったらしい。
「深山先輩って怒ると怖そうだな〜〜〜」
「そ、そうだね♪」
にっこり笑いながらも、頬を汗がつたう、みさき。
「……少しでも借金を返しておいた方がいいんじゃないか?」
「そ、そ、そ、それはそうだけど……」
口ごもるみさき。
流石に、はっきりと『返すあてはない』とは答えられないらしい。
「今度の校内ミスコンテストで、賞金が50万出るらしいけど、出る気はない?」
「ご、50万!?…それだけあれば、利子くらいは返せるかも…」
………利子?
「じゃあ、俺が変わりにエントリーしといてあげるよ♪」
「こ、浩平君…。やっぱり、優しいんだね」
「くっくっくっ……じゃない、はっはっはっ……みさき先輩の為ならこのくらいお安いご用さっ」
「ありがとう、浩平君。私がんばるよっ!!」
みさきは借金(複利)返済の為、やる気だ……。
放課後。教室。
「…椎名。エプロンはどういう時に着るか知ってるか?」
「みゅ〜っ♪お料理するとき、服の上に着るんだもんっ!!」
元気に答える椎名。
「ふっ…。それは誤った知識だっ!!」
ビシッと椎名に人差し指をさしながら言い放つ浩平。
「ほえ?」
「エプロンというのは着物と同じでな…ちゃんと着るときの作法があって、当然、下着も付けないものなんだ」
「はえ〜〜〜・・・・。」
感心する椎名。素直ないい子だ。
「よし。俺が教えてやるから、今度のミスコンテストに出てみろ」
「うんっ♪わかったんだもんっ!!」
椎名は純真だった……。
放課後。演劇部室。
「…澪。今日も熱心だな」
(にこにこっ)
『がんばるの』
澪は一人で演劇の練習をしていた。
「だが、専属コーチとして言わせてもらえばまだまだ甘いっ!!特訓してやってもいいが……どうする?」
『ぜひお願いするの』
真摯な眼差しで浩平を見つめる澪。
「よく言った、澪。じゃあ、裸の上にコレを着るんだっ!!」
浩平が澪に手渡した物。
それは、もちろんエプロンだった。
(……)
『これだけだとはずかしいの』
顔を赤らめながら答える澪。
「なに!?そんなことでオリンピックに出られると思っているのかっ!!」
いや、別にオリンピックは関係ない。
「それを着て、人前で演技が出来るようになって初めて一人前だっ!!ちょうどいい。今度のミステストに出て優勝するんだっ!!」
(えぐ、えぐ…)
『いやなの』
「澪………演技の為だっ!!」
(!!)
(……)
『わかったの』
涙をこらえつつ、答える澪。
澪は演劇を心から愛していた……。
そして、コンテスト当日。
ざわ、ざわ、ざわ……。
体育館には男子生徒があふれている。
「くっくっくっ……よくやった、折原。予想どうりの客入りだぞ」
「ふっ…俺にかかれば簡単なものだ」
舞台裏でほくそ笑む二人。
「そろそろよかろう。踊り子さん…もとい、出場者を呼んでこよう♪」
「そうだな。俺も見たいし♪」
二人はスキップしながら控え室へと向かった。
控え室。
コン、コン。
「そろそろ出番だぞ。準備は出来たか?」
浩平がドアをノックし、中に声を掛ける。
「………」
しかし、返事はない。
「どうしたんだ?」
「…さあ?開けてみるか?」
「そうだな…。時間も無いことだしな」
中の様子を不審に思った二人はドアのノブに手をかけた。
「入るぞ〜〜〜?」
ガチャ。
「……」
「……」
しかし、控え室には誰もいない。
「…どういう事だ?折原?」
「…さあ?……まて、なにかあるぞ!?」
控え室には、封筒が6通置いてあった。
ガサガサ……。
二人はその封筒を開け、中に入っていた手紙を読んでみた。
『やっぱりはずかしいの〜〜〜』
『おかあさんが、そんな真似しちゃいけませんって…』
『雪ちゃんが、お金はいいからやめなさいっていうから、今回は遠慮するよ』
『よく考えたら、乙女はそんな格好はしないと思うわ』
『…試しに詩子に見せてみたら、なぜか急にぬいぐるみを買ってくれて、ワッフルも毎日おごってくれるというので、出る必要がなくなりました』
『や、やっぱりはずかしいんだよ。今度、二人っきりの時に見せるから許してなんだもんっ!!』
「………」
「………」
その場に固まる浩平と住井。
「こらぁーーーーーっ!!まだかぁーーーーーっ!!」
「早くしろおおおおぉぉぉぉーーーーーっ!!」
「こっちは金払ってるんだぞっ!!」
「んあ〜…時間は守るように〜〜〜…」
痺れを切らした生徒の(一部生徒を含まず)罵声が、控え室まで届く。
二人は思わず走り出そうとしたが、すぐに思いとどまった。
体育館の入り口は、壇上とは反対側のひとつのみ。
そこまで行くには、荒れ狂う男子生徒の中を突っ切らなければならない。
「…住井…」
「…折原…」
二人に出来ることは、6通の手紙を握りしめ、ただ立ちつくすだけだった……。
………合掌。
TOPへ戻る