澪りんの懺悔室


とある日。
『なの〜なの〜♪』
陽気にスキップしながら道を歩く澪。
なにやらいい事があったらしい。
しかし、その気持ちをスケッチブックに書いて、誰に見せる訳でもないのに広げながら、一般道路をスキップして歩くのはあまり感心しないと思う。
そんな時。
(?)
澪は道端に奇妙な物を見つけた。
それは、一冊のスケッチブックだった。
表面に持ち主の名前がなかったので、失礼とは思いつつも中を開いてみた。
(?、?)
そのスケッチブックはずいぶんと変わっていた。
なんと、真っ白ではなく、スケッチブックいっぱいに、沢山のぐるぐる渦巻きが薄く印刷されていのだった。
そして、スケッチブックの最初にはこう書かれている。

『さあ、悩める子羊たちを救うのだっ!!』





『澪りんの懺悔室』



「あら?上月さん」
(にこっ)
昼休み。澪は演劇部に来ていた。
演劇部では部長である深山雪見が、一人、小道具の整理をしていた。
「どうしたの?まだ昼休みよ?」
そう言いながら、澪に笑顔で近づいていく雪見。
そして、雪見が澪の目の前に来た瞬間。

サッ!!

後ろ手に持っていたスケッチブックを、澪が雪見の前に差し出した。
「えっ?」
驚く雪見。しかし、澪がいつもスケッチブックで会話するのを知っている為、すぐにそのスケッチブックを読んでしまう。
…そこには、こう書かれていた。

『正直に心の内を告白するの〜っ!』

その文字を読んだ瞬間。
「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!!」
………雪見は謝っていた。
「先日、衣装の整理をしていた時出てきたボンテージの服を着てみたら、結構気に入っちゃったんで家に持って帰っちゃったの!」
「しかも、ムチなんか持ったら…なんて想像までしてしまって…」
なぜか、自分の胸深くにしまい込んだ秘密を告白してしまう雪見。
どうやら、ぐるぐる渦巻きが薄く印刷されたスケッチブックに原因があるようだ。
(にこっ)
そんな雪見を見て、にっこりと笑う澪。
その笑顔は天使のものか、悪魔のものか…。
「………みさき持ってるバニー服も一度は着てみたいかな〜なんて……」
なおも続く雪見の告白。
澪は、そんな雪見を一人置き去りにして、演劇部を後にした…。



食堂。
『正直に心の内を告白するの〜っ!』
「ごめんなさいっ!ごめんなさいだよっ!!」
「らっきょうを残したのは私なんだよ〜っ」


家庭科室。
『正直に心の内を告白するの〜っ!』
「悪かったわっ!私が悪かったわっ!!」
「調理実習のとき、真希のクッキーに唐辛子を入れたのは私よっ」


教室。
『正直に心の内を告白するの〜っ!』
「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!!」
「また猫を拾ってきちゃったんだよっ」


ハンバーガショップ。
『正直に心の内を告白するの〜っ!』
「みゅ〜っ!ごめんなさ〜〜〜いっ!!」
「お母さんの分のテリヤキ食べちゃったんだもぉんっ」


高級寿司屋。
『お寿司おごるの』
「よしきたっ!」
「この住井護に任せとけっ!!」


山葉堂。
『正直に心の内を告白するの〜っ!』
「……」
「…嫌です」



(にこっ、にこっ)
澪はご機嫌だった。
スケッチブックの効果に気がついた澪は、とある目的の為、実験を繰り返していたのだった。
結果は、ほぼ完璧。
まあ、一人だけ例外がいたようだが、それはなんとなく分かるので無視していた。
そして、澪は目的の部屋の前に立った。
軽音楽部室。
その部屋の扉には、そう書かれたプレートがぶら下がっていた。
いよいよ、澪の真の目的を果たす時。
スケッチブックを握る手に汗が滲む。
澪はバッと勢いよくスケッチブックを開くと赤くなった顔で、なにやら一気に書き込む。

バタンッ。

書き終わるとすぐさまスケッチブックを勢いよく閉じる。
どうやら、恥ずかしい事を書いたので、自分でもちゃんと見られないらしい。
スケッチブックを胸に抱え、深呼吸をする。
(……。)
そして、意を決したように扉に手をかける。

ガラッ。

部屋の中には一人の男子生徒がいた。
「なんだ、澪じゃないか」
そう。多分、説明はいらないと思うが、折原浩平その人である。
「どうしたんだ、澪?」
扉の前に立ちつくす澪を見て、怪訝そうな顔をする浩平。
しばらく、おろおろとしていた澪だが、不意に浩平の元へと走り寄った。

バタバタバタッ…。

「?」
浩平は、そんな澪を黙って見ていた。
澪は浩平の前まで来ると、下を向いたままスケッチブックを広げ、浩平の眼前に掲げた。
「……」
…しかし、浩平には反応がない。
まさか、字が読めないなんてオチなのか?
そんな作者の不安を余所に、恐る恐る顔を上げて浩平の顔を見る澪。
その時。

ガバッ!!

「澪…」
突然、澪を抱きしめる浩平。
澪は思わずスケッチブックを落としてしまった。
「…好きだ」
そして、耳元で囁かれる言葉。
澪の小さな身体が浩平に包まれる。
どうやら、澪の作戦は成功したようだ。
しかし…。
澪の心には喜びはなかった。
あるのは後悔と自責の念。
こんな事をして、何になるのか?
自分の浅はかさに顔をうなだれる。
(っ!!)
しかし、その澪の目に驚きが。
そして……沢山の涙が溢れていた。
「…どうしたんだ、澪?」
澪を抱きしめたまま優しく囁く浩平。
しかし、澪には答えられない。
だから、自分も精一杯手を伸ばし、浩平を抱きしめた…。





…澪の足下に落ちているスケッチブック。

そこには、こう書かれていた。

『好きだと言って抱きしめるのっ!!』



真っ白なページに…。






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