かみさま。
ふと部屋を見ると、いっぱいに張ってあった写真がある。
メガネをかけて髪の跳ねた女の子、制服に白衣を着た男、ショートカットの元気そうな女の子。
そして、いつも一緒にいる髪の長い、俺より少し年上に見える女の子。
みんな、俺の知らない人たちだった。
俺の知らない出来事がそこにはあった。
そして、そこに映っている俺にも、現実感がもてなくなっていた。
見ていることに耐えきれなくなって、俺は、その写真を忘れたものから、はがしていった。
子供の頃の俺。海ではしゃいでる。
少しだけ少年の顔をした俺。京都の町並みを背景に同じような少年達とやんちゃな表情を浮かべている。
着慣れない制服の俺。中学の入学式で髪の長い少女に頭を撫でられて嫌がっている。
少し大人びた俺。プールサイドの表彰台で誇らしげにメダルを掲げている。
ほんの少し前の俺。沢山の見知らぬ仲間に囲まれて、幸せそうに笑ってる。
全部。
全部、俺の知らないことだった。
全部、俺の知らない人だった。
1枚1枚、手をかけて、そして、1枚1枚、はがしていく。
それはまるで、俺が自分自身であることをやめていく儀式のようだった。
いつの間にか流れていた涙が、止まらなくなっていた。
長い時間をかけて、写真をはがし終え……。
残ったのは、1枚だけ。
俺の人生で残ったのは、それだけだ。
カナ坊の照れたような笑顔が、そこにあった……。
「って、なんだこれはああああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっっ!?」
微笑むカナ坊。
真新しいランドセル。
そして、うっすらと上気して薄紅色に染まった白い肌……。
「なんでだよ……なんで、俺は、こんな犯罪者になってしまうような写真を持ってるんだよ……?」
ゆっくりと、張ってある写真をはがし、裏を見る。
『時代はメイドより裸ランドセルっすよー。 by 真田武彦』
……。
…………。
………………。
ふと窓の外を見る。
もう、陽が暮れていた。
かみさま。
おねがいします。
どうか。
………………俺から、この写真だけは取り上げないでください。
……ふと。
『お前は俺と同じ匂いのする奴だ……。だが、お前は俺のようにはなるな』
そんな声が、どこか遠くから聞こえたような気がした………………。
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