髭の憂鬱(前編)
「はぁー…っ」
ショーウインドウを見つめ、ため息をついている男がいた。
髭である。
「んあー……50万か…」
高価な代物らしい。
「欲しいなぁ…」
髭に金が無い訳ではない。
「でも、晴香に殺されるだろうな…」
ただ、自由になる金が無いのだ。
髭は恐妻家であった。
「髭君」
「あー、校長。何でしょう」
校長は髭のことを名前では呼ばない。
「君に折り入って頼みがあるのだが…」
「はあ」
校長は話しづらそうである。
「…実は今度やっかいな転校生が来るんだ…で、君のクラスで面倒を見て欲しいんだが…」
校長のそう言って机の上に問題の転校生の資料を置いた。
髭はその資料を手にとると、ぱらぱらっと目を通し始めた。
七瀬留美。
写真を見る限りではなかなかかわいい子だ。
だが、資料に目を通して行くうちに、髭の表情が凍りついていく。
「こ、校長…この生徒は私ではちょっと…」
いったい何が書かれていたのであろうか。
「それは承知の上だ。何とか頼む」
「いや、しかし…」
「特別ボーナスも考えている」
ぴくっ。
資料を机に置こうとした髭の手が止まる。
「…ボーナス?」
「むろん他にもがんばって貰うが、50万ぐらいなら私が何とかしよう」
「校長!私には生徒を見捨てる事など出来ません!任せて下さい」
「そ、そうか。では、よろしく頼む」
「はい!何でも言いつけて下さいっ」
「あ、ああ……」
こうして髭の受難の日々ははじまったのであった。
髭の憂鬱(中編)を読む
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