日溜まりと悲しみの狭間で
「こんどは、お城をつくろうよっ!!」
うんっ!
女の子が力強く頷く。
ブランコ。
滑り台。
ジャングルジム。
砂場。
言葉なんかいらなかった。
力の限り、思いっきり遊んだ。
大切な時間。
その時間は、あっという間に過ぎて行く。
公園が暗くなる頃には、立派なお城が出来ていた。
大きな、大きな………砂のお城。
「…もう、かえらなきゃ」
えぐっ。
女の子は涙を浮かべている。
「これ、あげる」
私は、頭の後ろで止めていたピンクのリボンを外して、その女の子にあげた。
「じゃあ、またねっ」
うんっ!
女の子が大きく頷く。
……私は嘘つきだ。
もう………逢えないのに。
「みさお、大丈夫?先生呼ぼうか?」
外で遊んだせいで、少し熱が出たみたい。
おかあさんが心配そうに私を見つめている。
「ばかだなぁ、みさお。ちょうしにのって遊びすぎるからだぞ」
お兄ちゃんは、腕組みをしていばってた。
「浩平っ!!大体、あんたが悪いんでしょうっ!!」
ぽかっ。
「いてっ!…う〜ん、なんでばれたんだろう?みさおのベットに寝て、ちゃんと、ふとんかぶってたのに…」
「注射打つって言ったら、飛び跳ねて逃げ出したからでしょう」
思わず、その場面を想像してしまう。
「…ぷっ…あはははっ」
「あ。笑ったな、みさおっ!!」
お兄ちゃんは、怒っているようだけど、顔は笑っていた。
「あはははっ…ご、ごめんなさ〜い。お母さんもごめんなさい」
「わたしが外であそびたいって、おにいちゃんにお願いしたの。だから、おにいちゃんをおこらないで…」
「……ふう。しょうがないわね」
笑いながら謝っている私の顔をみて、お母さんもやっと笑みを浮かべた。
「でも、もう駄目よ。外で遊ぶのは体がちゃんと治ってからだからね?」
「………うん」
体が治ってから。
お母さんは、いつもそう言う。
でも……。
「…ねえ、おにいちゃん」
「ん?なんだ、みさお」
「友達が出来たの」
「そうか!良かったな、みさお」
「だから、わたしのかわりに遊んであげてほしいの」
「まかせておけ!!で、かわいい子か?」
「おにちゃん、わたし、女の子だっていってないよ〜?」
「あれ?そうだったか?」
「くすっ・・・かわいい子だよ。わたしのリボンをあげたから、わかると思うよ」
「ああ。分かった。ピンクのやつだな。まかせておけ!!」
……私の最後の友達。
みさおとの約束。
守れなかった約束。
公園には行くつもりだった。
でも…みさおの様態は日に日に悪くなっていった。
そして、母さんも病室に現れなくなった。
もう、俺しか…みさおの側にはいなかった。
そして…みさおの病室。
壁を背にして立ち、ベットに体を横たえる、みさおを見つめている。
ころころ…。
弱々しくカメレオンが舌を出したり、引っ込めたりしている。
ただそんな様子を眺めているだけだった。
ころころ…。
ころころ…。ころころ……。
ころころ……。ころ……ころ。………ころ。…………。
カメレオンの舌が動きをとめた。
みさおの葬儀は、一日中降り続く雨の中でおこなわれた。
そのせいか、すべての音や感情をも、かき消されたような、静かな葬儀だった。
冷めた目で、みさおの収まる棺を見ていた。
ずっと、みさおと一緒にいられると思っていた。
ずっと、みさおはぼくのことを、お兄ちゃんと呼んで…そしてずっと、このカメレオンのおもちゃで遊んでいてくれると思っていた。
だから望んだ。
あの永遠の世界を。
でも、永遠なんかなかった。
そして、俺は帰ってきた。
あの娘との絆のおかげで。
この変わり映えのしない、日常の世界。
だからこそ、その一瞬、一瞬が大切なこの世界へ。
腕時計を見る。
…もう、2時間か…?
春休み最後のデートに遅れてくるか、普通。
あいつのことだ、絶対に道に迷ってるんだろうなぁ…。
探しに行くか…。
こんないい天気だ、散歩するだけでも価値があるってもんだ。
「まずは商店街…ぐあっ!」
「……」
にこにこ。
「…く、くるしい」
「……」
にこにこ。
「…澪っ!お前、何やってたんだよっ!!遅刻だぞっ!!」
「……」
うん。
すぐ横で元気に頷く。
「うん、じゃないだろう…まったく…おおかた道にでもまよってたんだろう?」
「……」
うん、うん。
元気に頷く
…なんて案の定な奴なんだ…。
「澪…お前いつまでそうしているつもりだよ?」
『背中、あったかいの』
……澪にも困ったもんだ。
そう思いながら、俺は澪の方を振り向いた。
「!!」
澪が頭に付けているピンクのリボン。
見覚えのある、遠い記憶。
「澪…そのリボンは…?」
にこっ!
『宝物なの』
「友達が出来たの」
「可愛い子だよ。私のリボンをあげたから、わかると思うよ」
果たせなかった、みさおとの約束。
みさおの最後の友達。
そして、俺の大切な人。
俺は空を見上げた。
……みさおが昇っていった空を。
いつか、澪にも話してやろう。
こんな、日溜まりの中で。
TOPへ戻る