秋風駆ける子供たち
秋…。
秋は好きだ。
冷たい風が、夏の暑さにだれた体を引き締めてくれる。
もうすぐ冬の訪れを感じさせる、もの哀しさが秋にはある。
そして、瞬く間に夜が訪れる。まるで、哀しさを隠すように…。
「………」
「…祐一さん?ぼーっとしてどうかしたんですか?」
リビングの窓に寄り添い、何もない暗闇を見つめる俺に秋子さんが話しかけてきた。
「…いえ。何も。日が暮れるのを見てただけです」
そのままの事実を告げながら、声の方へと振り返る。
「…名雪は?」
振り返りながら、姿の見えない従妹のことを訪ねる。
この日の落ちる早さでは、既に部活は無理だろう。
「美坂さんの家で勉強会だそうです。もうそろそろ本格的に受験シーズンですからね」
「今日は泊まってくるそうですよ。あの子がいないと、妙に家が静かで寂しいですね…」
微笑みながら答えてくれる秋子さん。
「…そうですか…」
「………そういえば、もうすぐ祐一さんがこの家に来てから一年になりますね…」
何もない暗闇に目をやりポツリと呟く。
「………」
……そして、俺はこの家からいなくなる。
いずれ名雪も俺もこの家を出ていく日が来るだろう。
『その時』は、ゆっくりと、そして確実に近づいていく…。
口には出さないが、秋子さんの微笑みが……哀しそうな微笑みが、そう語っていた……。
「………」
…いつからだろう……こんな風に秋子さんを想うようになったのは…。
ずっと昔の事だった。ずっと、ずっと……。
幼い頃…。
遊びに来ていたあの日。
楽しい夕食前の突然の電話。
そして、受話器の落ちる音……。
秋子さんは……声を出さないで泣き崩れていた……。
ただ……ただ、幼い名雪を抱きしめながら……。
………。
……。
…。
………守りたいと思った。
何も出来ない子供なのに。
「…祐一さん?どうしました?」
怪訝そうな顔で俺の顔をのぞき込む秋子さん。
「いえ…何でもありません」
何を思いだしていたかを悟られないように、にっこりと微笑みながら応える。
…あれが初恋というものだったのかもしれない。
この街を離れ……再び訪れるまで忘れていた感情。
「?おかしな祐一さんですね」
そう言って、再び微笑む秋子さん。
…そう。忘れていた。
再びこの笑顔を見るまでは。
「さあ。そろそろご飯にしましょうか」
「ええ」
秋晴れの晴天。
「祐一、はやくはやくーっ♪」
「子供か、お前はっ!!」
公園を駆け抜ける名雪。
「でも、たまにはこういうのもいいですよね」
お弁当箱を手に微笑む秋子さん。
確かにピクニックにはもってこいの日だ。
例え、それが近所の公園でも。
「じゃあ、祐一さんが名雪を捕まえられたらお昼にしましょうか♪」
「えっ!?そんな、だって名雪は陸上部…」
「うんっ、頑張るよ」
「頑張るなっっ!!」
…秋は好きだ。
もうすぐ冬の訪れを感じさせる、もの哀しさが秋にはある。
そして、その中に感じる暖かさが……。
…告げることの出来ない想い。
それでも……。
あなたの哀しみを癒したい。
…ほんの僅かなこの時間。
ただ……。
ただ……側にいるだけでも。
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