依子さんのお歳は〜♪ ( 前 編 )

作 : かっぺえさん


 う〜〜〜。
 あ〜〜〜〜〜〜。
 ほみ〜〜〜〜〜〜〜。

こんこんっ。

 ぬら〜〜。
 ねへ〜〜〜〜〜。
 ひょら〜〜〜〜〜〜。

こんこんっ。

 …何かが俺の「満腹後ベッドでごろごろ微睡み」という最高の幸せを壊そうとする。

こんこんこんっ。

 …知らん。俺はこの一瞬の幸せの中で生きる糧を得ているのだ。
 何人たりともこの幸せを壊すことはまかりならない。

椎子「あ、あの直弥さん…寝ちゃいました?」
 扉の向こうから遠慮がちな声が聞こえる…
 この声は…C…じゃない椎子ちゃん?

 となれば! 体をがばっと起こし淀む頭を覚ます。
直弥「どうぞ。入って良いよ」
 出来るだけ爽やかな声で言った。
椎子「お邪魔します…あ、やっぱりお休み中でした? ご、ごめんなさい…」
 丁度乱れた服やら髪やらを正してた所だった。
直弥「ああ、いや。ごろごろしてただけだから、気にしなくて良いよ」
 珍しく椎子ちゃんが俺の部屋を訪ねてきてくれてるのだから、「満腹後ベッドでごろごろ微睡み」なんてどうでも良い。
椎子「ふぅ、良かった」
 と、椎子ちゃんの服の袖をひっつかんで迷子の子供のようにおどおどしてる人物…美凪ちゃんが居ることに気づく。
椎子「それで、こんな遅くに訪ねたのは…」
直弥「いや、その前に。…その美凪ちゃんは一体?」
 普通、このコンビが俺の部屋を訪ねてくるとしたら、間違いなく美凪ちゃんが適当にノックした後「直弥〜はいるで〜〜」とか言って、さくさく入ってきそうなものだが(言い過ぎか?)。
椎子「実は…その美凪の事で相談があって…」
美凪「なあ、椎子。やっぱやめへん? これ以上公にするのはあかんよ…」
 公? なんかあったんだろうか?
椎子「でも、美凪一人じゃ絶対にばらしちゃうでしょ? だからせめて直弥さんに相談しようって決めたんでしょ?」
美凪「せやけど…」
 いや、実際あるからこうしてここに来ているのだろう。
直弥「えーと、よく話が見えないんだけど…」
椎子「あ、ごごめんなさい。…いい、美凪、話すよ?」
美凪「…うん、しゃあないよね」
直弥「俺に出来ることならするし、話すだけでも楽になるんじゃないかな?」
 さっきから怯えまくってる美凪ちゃんに優しく諭す。
椎子「そういう類の話でも無いんですけど…」
直弥「ていうと?」
椎子「…美凪の能力…ご存じですよね?」
直弥「うん、大まかには」
 美凪ちゃんの能力。人の心を読む力(どの程度までかは詳しく知らないけど)。
 それこそが彼女…いや形は違えど俺達がここにいる理由だった。
椎子「それで…読んじゃったんだそうです。…依子さんの心を」
美凪「授業中…つい気がゆるんでもうて…」
 …言ったきり美凪ちゃんは黙りこくってしまう。
 …人の心を読む。その能力自体はすばらしいものかも知れないが、時には知りたくもないことまで知ってしまう。それが今美凪ちゃんの肩にのし掛かってるのか…
直弥「…出来れば、で良いよ。依子さんの心の…何を読んだの?」
椎子「直弥さん。他言無用…それを誓って貰えますか?」
直弥「…うん、誓う」
 ふぅ、と一呼吸の後俺はいった。が、
美凪「なあ、やっぱやめようや。直弥、絶対黙ってられへんて」
直弥「美凪ちゃん、それは酷いって。これでも昔は「飲むヨーグルトの直弥」と呼ばれていた男だぞ」
椎子「飲むヨーグルトって…」
直弥「…口が堅いってのを逆に比喩した言葉らしい」
 …ダメじゃん。
椎子「普通「口が堅い」の反対と言ったら「軽い」なのでは…」
直弥「しらん、語呂が良いからとか言われて柔らかいになってしまった」
美凪「あ、そーゆーんならわたしも「フルーチェの美凪」って呼ばれとったよ」
 …もっとダメじゃん。
 あ、椎子ちゃんが頭抱えてるし。
 …
 …
 …
椎子「と、とにかく。直弥さんを信用して話します」
 数十秒、いやともすれば数分逡巡した後、椎子ちゃんは切り出した。
 かなり悩んだ末の結論だったらしい(気持ちも分かるけど)。
直弥「おう、どんとこい!」
 出来るだけ頼もしそうに言う。
椎子「実は…美凪が読んだ依子さんの心…それが依子さんの最近のお悩みで」
 依子さんの悩み? 深刻な二人には悪いがあのお気楽極悪教師に悩みがあると聞けば興味もでる。
直弥「うんうん」
 興奮を抑えながら次を促す。
椎子「依子さん、今年で3○なんだそうです」
 …なんだそんなことか…。って!?
直弥「そ、それホントっ!? そんなに小さかったっけ!? そんなに細かったっけ!? そんなに軽そうだったっけ!? そんな…」
美凪「胸でも、腰でも、体重でもあらへんのよ…」
 俺の言葉を遮るように美凪ちゃんが口を挟む。
直弥「じゃ、じゃあ…やっぱり…」
椎子「…お歳…です」
直弥「よ、要するに。依子さんはもう三十路過ぎって意味?」
美凪「…そーゆーことやねん」
 ぐはあっ!! そりゃあ、俺達よりは上だろうとは思っていたけど…まさか三十路越えてるとは…(付いて行かなくて良かった)。
 …
 …
 …
 落ちる沈黙。
直弥「…で、それを知ってるのは?」
 気を取り直して訪ねる。ここからが本番だ。
美凪「依子さん、当然隠しときたかったらしゅーて…」
椎子「多分、私たち。と依子さんご本人しか…」
美凪「わたしやて大人しゅーだまってればえーんやけど…早速椎子に話してもーたし、こうして直弥も知ってもーたし…だってこんなおもろいネタ黙ってたら元フルーチェの美凪ちゃん呼ばれとった名が泣くやん!!」
 一気にまくし立てる美凪ちゃん。いってることは無茶苦茶だが気持ちはよく分かる。
椎子「そこで、これ以上この話が広まらない用になにか良い知恵が無いかと…」
直弥「つまり、美凪ちゃんのお喋りをくい止めろ、と?」
椎子「そういうことです」
直弥「無理…だと思う」
 っていうか俺も「飲むヨーグルトの直弥」と呼ばれていた男だ。思いっきり誰かに話して廻りたい気分だったりする。
 成瀬の部屋に突撃して教えてびっくりさせた後、珠季に散々もったい付けた後教えてやって、あげくB棟に赴いて透子にも教えてやりたいぐらいだ。
美凪「ああ、こないなことが依子さんにばれてもーたら。山のよーな宿題におわれて宿題まみれの汚れた女として一生生きていかなあかんのやー」
 大げさに言い放ち部屋の隅で頭を抱える美凪ちゃん。
 いや、汚れるかどうかは別として大げさな話ではないかも知れない。あの依子さんなら遣りかねない…っていうかやるだろう。
直弥「と、とにかく。善後策ぐらいは考えておくよ」
 美凪ちゃんと同じ立場に立ったと考えると、美凪ちゃんがあまりに気の毒である。
美凪「頼むでー直弥ーーー」
 泣きそうな顔で懇願する美凪ちゃん。
椎子「美凪の為にも、お願いします。直弥さん」
 心配そうな目で美凪ちゃんを見ながら椎子ちゃん。

 …こうして波乱の日の幕開けが訪れたのであった。






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