
| むかしむかしのお話です。甲斐(かい)の国(いまの山梨県)のとある山里に、一人の美しい娘がすんでおりました。 冬もそろそろ終わろうという、ある暖かい日のことです。娘は里の人たちといっしょに山にでかけていきました。ところが、夢中で遊んでいるうちに、みんなからはぐれ、一人だけ道に迷ってしまいました。 日は沈み、まっ暗になった山道を、娘は泣き泣き歩きました。ガサガサッという物音がするたびに、いまにも山の化け物たちがせまってくるような気がして、びくびくおびえながら、ひたすら歩きつづけました。すると、はるかかなたに、小さな明かりが見えてきました。 娘は、もう、うれしくてうれしくてたまらず、その明かりに向かって走りだしました。と、そこは、一軒のあばら家でした。おそるおそる戸を開けてみますと、それはそれは、おそろしい顔をした山姥が一人、いろりにあたっておりました。それでも娘は、 「どうぞ、一夜の宿をお貸しください」 とたのみました。すると、山姥は、 「ここは、人を食う者の家だから、おまえを泊めるわけにはいかぬ」 と、ぴしゃりとことわりました。 あきらめきれない娘は、 「この暗い山道を歩けば、クマかオオカミに食べられるに決まっています。同じ食べられるなら、ここで食べられたほうがいい」 と、さめざめと泣きながらいいました。 山姥は、この娘の純真な心にうたれ、たいそうあわれに思いました。そして、宝物の蓑を娘に与え、 「ここに泊めるわけにはいかんが、そのかわり、この蓑をおまえにやろう。これを持っていると、自分の姿を変えたり、ほしい物を何でもだしたりすることができるんじゃ」と、教えました。 娘は山姥にあつくお礼をいって、また暗い山道を歩きだしました。そして、さっそく山姥からもらった蓑をかぶり、よぼよぼのおばあさんに姿を変えました。 しばらくいくと、山道の途中で、円座になって酒を飲んでいる、おそろしい鬼どもに出会いました。鬼どもは、すぐに娘に気づき、ジロジロとながめていましたが、そのうちのまっ赤な鬼が、大きな声でいいました。「なんだ、ばあさんか! あんなよぼよぼのしわくちゃばあさんじゃ、食ってもうまくなかろうて」 と、またみんなで酒を飲みはじめました。 娘はもう生きた心地もなく、わき目もふらずに鬼の横を通りすぎ、どんどん山道を走りだしました。 やがて、こわい夜も明けたころ、やっと人里にでました。そして、さいわいなことに、おばあさんの姿のまま、たいへん情け深い長者(ちょうじゃ)にやとわれたのです。 おばあさんになった娘は、朝から晩まで、それはそれはよく働きました。娘は、みんなが寝しずまった夜中には、もとの美しい姿にかえって手習いなどをしておりました。 ところが、ある晩、長者の息子が部屋の明かりに気づいてしまいました。息子が、そっとのぞくと、なんと、そこには美しい娘がいるではありませんか。息子は、そのあまりの美しさに、すっかり娘が好きになってしまいました。 朝になってから、息子はさっそくその娘をさがしましたが、娘の姿はどこにも見あたりません。ふしぎに思った長者と息子が、おばあさん姿の娘に問いただしました。そこで、かくしきれなくなった娘は、いままでのことを、つつみかくさず話したのです。 ![]() いきさつがわかった長者の親子は、ますますその娘が気に入り、里の家まで送りとどけてあげました。 それからまもなく、娘は親につきそわれて、長者の息子のところに嫁入りしてきたんだとさ。 めでたし、めでたし。 |