子宮内膜症の二大問題 痛みと不妊

子宮内膜症の「痛み」には、「月経痛」と月経時以外の下腹部痛(骨盤痛)があります。
月経痛では寝込む場合や、救急車を呼ぶほどの転げ回るほどの痛みを覚えるものがあります。中には鎮痛剤を使用しないという人も多くいますが、鎮痛剤を使ってさえも痛みが軽減しないという人も多くいます。



●子宮内膜症の特徴ともいえるのは、月経時以外の下腹部痛(骨盤痛)です。その時期は、月経終了後から排卵過ぎまでの一週間と、月経前の一週間です。


1.炎症反応のせいで集まっているマクロファージが出す化学物質の影響で、病変が周囲組織を損傷する痛み
子宮内膜症では、月経時に腹腔内出血がおこります。すると、お腹の中に出血した血液を処理するために、マクロファージと呼ばれる貪食細胞(どんしょくさいぼう:異物を食べる細胞)が動因され、活性化されます。活性化したマクロファージは精子をも食べてしまいます。さらに活性化したマクロファージからは種々の化学物質が放出されます。これらの化学物質は、卵あるいは受精卵に影響を及ぼし、その発育を抑えます。これらのことにより妊娠がおこりにくくなります。

2.病変が、瘢痕化、硬結と変化しながら、周囲組織を引きつれさせる痛み

3.神経を損傷する痛み

4.腸の動きやセックスなどのさまざまな動きで引っ張られたり伸ばされたりする痛み
性交痛は、仙骨子宮靭帯に子宮内膜症ができたときにみられる症状です。仙骨子宮靭帯は子宮を支えている靭帯の一つです。性交によって子宮が強制的に動かされると、仙骨子宮靭帯が緊張します。普通、仙骨子宮靭帯は伸縮性をもっていますが、ここに子宮内膜症ができると、瘢痕などによって靭帯が硬くなり、伸縮性を失います。子宮内膜症のため伸縮性を失った仙骨子宮靭帯は、性交時に過度に緊張し、これが痛みの原因になります。
子宮内膜症がダグラス窩や仙骨子宮靭帯にでき、直腸などと癒着したような場合に認められる症状の一つが、排便痛です。排便のときには直腸が動くのですが、もし癒着や瘢痕などがあれば、直腸が運動するときに癒着部分が引っ張られ、あるいは瘢痕部が緊張します。これらを痛みとして感じるのです。

5.癒着で組織や神経が損傷され、また臓器と腹膜や臓器どうしがくっついてしまうために生じる緊張での痛み

6.付近の血流が減って(虚血)起こる痛み

 一般の女性にくらべて、子宮内膜症の女性ではプロスタグランディンという物質が多くつくられます。プロスタグランディンは、子宮や腸の筋肉である平滑筋(へいかつきん)を収縮させるはたらきをもっています。したがって、子宮内膜症の女性では子宮の筋肉が非常に強く収縮すると考えられます。

 子宮の筋肉が収縮すると、子宮への血液の供給が少なくなり、いわゆる虚血状態となります。心筋梗塞は心臓の筋肉への血液の供給量の低下によっておこるのですが、この場合、非常に強い胸の痛みをともないます。子宮筋が虚血状態になると、心筋梗塞の場合と同じような現象が子宮でもおこります。

 ただし、子宮筋の収縮はいつも同じ強さでおこっているのではありません。強くなったり弱くなったり周期的に変動しています。この周期的変動のパターンに一致して痛みの強さも変動します。

 プロスタグランディンは腸の筋肉をも収縮させます。その結果、吐きけ、嘔吐あるいは下痢などの消化器症状があらわれます。

 一般に、鎮痛剤はプロスタグランディンの産生を抑えることにより、痛みをコントロールします。

7.子宮後面やダグラス窩の広い瘢痕化や癒着が、周辺(腰や背中)を強く圧迫する痛み
ダグラス窩、広間膜後葉、仙骨子宮靭帯に子宮内膜症ができると、腰痛の原因となることがあります。これは、このあたりに分布している神経が腰骨(仙骨)の前方にある前仙骨神経叢(神経の集中しているところ)に集まり、ここを経由して痛みの刺激が脳に伝わるためです。

8.嚢胞病変の中で出血が起こるために内圧が高くなり、嚢胞の壁や周囲組織や神経が圧迫刺激を受ける痛み
月経時には子宮内膜症の病巣からも出血がおこります。出口がないため、この出血はお腹の中にたまります。お腹の中にたまった血液は腹膜を刺激し、強い痛みをもたらします。子宮外妊娠などの強い痛みも、これと同じようなメカニズムでおこります。
子宮内膜症の病巣が深い場所にあるような場合には、月経時の子宮内膜症の病巣からの出血は、腹腔内には出ず、組織の間にたまり、その結果として、出血がおこった部分の緊張が高まり、さらに出血は組織の間をひき裂くようにはたらきます。これも非常に強い痛みの原因になります。

9.嚢胞が破裂した場合は、内容液がお腹の中に漏れ、腹膜を強く刺激して起こる痛み
卵巣チョコレート嚢腫は、ときとして自然に破裂することがあります。破裂は、嚢腫の中にたまった液体の量が急に増えるとき、すなわち月経時におこることが多いようです。嚢腫が破裂すると、その中にたまっていた古い血液がお腹の中にばらまかれます。ばらまかれた血液によって腹膜が刺激され、激しい腹痛がおこります。
このようなときは、手術的な治療が必要となります。手術は開腹して行われることも多いのですが、あとあとのためには、できれば腹腔鏡下に手術を行うほうがよいと思われます。この手術は、腹腔鏡で観察しながらお腹の中をよく洗浄し、卵巣子宮内膜症を取り除きます。卵巣子宮内膜症は単独でおきていることはむしろ少なく、そのほかの骨盤内臓器にも子宮内膜症ができていることが多いのです。そこで骨盤内をよく観察し、子宮内膜症がみつかればそれを取り除きます。

10.神経が束になっている部分(仙骨子宮靭帯)に病変や癒着ができ、神経が強く刺激されたり破壊される痛み

腰痛は、月経痛や月経時以外の下腹部痛があるときに、下腹部の痛みを脳に伝える神経の流れ方で腰に痛みを感じさせることも多いので、六割近くの人にあって当然だそうです。

性交痛があるのも特徴です。膣の入口に痛みが走る性交痛もありますが、子宮内膜症の場合は、膣のもっとも奥から腹腔内にかけて、とくに後ろ側に走る畳針で刺されたような激痛や、セックスの後まで残る鈍痛などです。

肛門奥の疝痛(刺すような痛み)や排便痛というのは、痔と間違いやすい排便時瞬間の痛みもありますが、排便したくなる一時間前や10分前などに、便やガスが移動してきて、腸の病巣(腸の外側の腹膜病変や硬結など)や癒着付近を通るときに起こります。

背中や足の痛みは、腰痛と似たような事情で、下腹部の痛みが背中や足に放散するからです。

吐き気、頭痛、下痢の原因のひとつは、月経痛の一因と言われるプロスタグランジンという物質で、月経痛にともなうことが多いでしょう。



他にも、レバー状の塊が出る、月経量が多い(過多月経)、不正出血など、子宮腺筋症に特徴的な症状もあります。


●子宮内膜症の症状の一つとして不妊があげられます。いわゆる原因不明不妊の女性では非常に高率で子宮内膜症が認められます。正常な女性の子宮内膜症の頻度が明らかでないので正確なことはいえませんが、正常な女性における子宮内膜症の割合はそれほど高くはないのではないかと思います。さらに、子宮内膜症を診断するために腹腔鏡検査を行い、お腹の中をよく洗って、子宮内膜症の病巣を取り除くと、多くの女性が妊娠できるようになります。すなわち、子宮内膜症を取り除くと妊娠しやすくなるのです。
子宮内膜症患者の間では、この腹腔鏡手術ご半年間ぐらいを「ゴールデン」と言っているようです。この期間はもっとも妊娠しやすい貴重な期間になるようです。

 1.骨盤内臓器の解剖学的な異常
子宮内膜症の病巣からは、月経のたびに繰り返し出血がおこります。そして、出血した部位が治っていく過程において、癒着や瘢痕がおこることがあります。癒着はときとして卵巣や卵管など妊娠するうえで非常に重要な臓器を巻き込むことがあります。もし卵巣や卵管が癒着に巻き込まれたら、排卵された卵が卵管の中に取り込まれず、したがって妊娠はおこならなくなります。

 2.腹腔内の貪食細胞の影響
子宮内膜症では、月経時に腹腔内出血がおこります。すると、お腹の中に出血した血液を処理するために、マクロファージと呼ばれる貪食細胞(異物を食べる細胞)が動因され、活性化されます。活性化したマクロファージは精子をも食べてしまいます。さらに、活性化したマクロファージは精子をも食べてしまいます。さらに、活性化したマクロファージからは種々の化学物質が放出されます。これらの化学物質は、卵あるいは受精卵に影響を及ぼし、その発育を抑えます。これらのことにより妊娠がおこりにくくなります。

 3.プロスタグランディンの影響
 子宮内膜症ではプロスタグランディンが増えていることは、前に述べたとおりです。プロスタグランディンは排卵現象に大きく関係していますが、子宮内膜症で慢性的にプロスタグランディンの値が上昇していれば、排卵に影響がでることが予想されます。また、卵管も子宮と同じように平滑筋でできているので、プロスタグランディンが卵管の運動性に影響すると、卵がうまく卵管に入らなくなる可能性があります。

 ヒトでは明らかではありませんが、ある種の動物ではプロスタグランディンや黄体の退縮をもたらします。あるいは、ヒトにおいてもプロスタグランディンによって黄体の機能が影響され、その結果、子宮内膜になんらかの変化がおこっているのかもしれません。

 プロスタグランディンが子宮の収縮をおこすことは前にも述べましたが、子宮内膜症で増加したプロスタグランディンが着床期の子宮を収縮させることによって、受精卵の着床がうまくいかなくなることも予測されます。

 4.卵捕獲抑制因子の存在

卵管は、体外に取り出しても活発な卵捕獲能(卵を取り込む能力)を保っています。ところが、この卵管を子宮内膜症の女性から得た腹水につけてみると、その卵捕獲能は早期に失われます。この卵捕獲能を失わせている物質は分子量の大きな物質であり、プロスタグランディンや貪食細胞にかかわる物質ではありません。
 子宮内膜症の腹水につけて卵捕獲能を失った卵管を電子顕微鏡で観察すると、卵管采(らんかんさい:卵管の先端に位置し、卵を実際に捕獲する部分)の表面は膜状の沈殿物でおおわれています。この膜状の沈殿物のために、卵管采の卵捕獲能が失われるのです。

実際の子宮内膜症では、これらの要因が複雑にかかわりあって、妊娠しにくい状態になっていると思われます。



(本よりの抜粋)

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