「酒は百厄(薬)の長?」 −25−
坂本 隆
第25回 再飲酒 〜 くじけずに断酒努力を 〜
Wさん(42)はアルコール依存症で退院してから半年になりました。自助グループ(AAや断酒会)にも参加しており、きちんと通院も続けています。以前であれば、あれほど飲みたくて仕方のなかったお酒も今は飲む気になりません。アルコールの自動販売機の前を通っても平気になってきたので、かなり酒をやめる自信が付いてきました。「自助グループに出ても同じ体験談の繰り返しだし、そろそろ行かなくてもやれるんじゃないかな」と考え始めたWさんは、少しずつ自助グループや病院から足が遠ざかる傾向にありました。
ある日、親類の結婚式に呼ばれたWさんは、はじめは飲まないつもりでしたが、乾杯の発声につられ「一杯くらい大丈夫だろう」と一杯のおちょこをひと飲みにしました。その後はジュースやウーロン茶でやりすごしたWさんでしたが、帰宅した後、無性に飲みたくなってしまいました。我慢できずに1升瓶を買ってくるとそれから数日間の連続飲酒発作に陥ってしまい、病院に来た時には見るも無惨な姿でした。「やっぱりオレはダメな人間なんだ。断酒なんかできないんだ」と泣きじゃくっています。
断酒路線を踏み出している人が再飲酒してしまうことを「スリップ」といいます。滑って転んでしまったということです。どんなに断酒の決意が強くてもスリップしてしまうことはあり得るのです。「スリップも回復のうち」といわれます。大切なことは再飲酒したら「もうお終いだ」と諦めることではなく、どうしてスリップしたのかを振り返り、問題を明らかにして同じ失敗を繰り返さないようにすることです。Wさんの場合、ある程度の断酒期間が続いたことから過信してしまい、自助グループや治療から遠のいていました。そして「少しくらいなら」と油断してしまったことが問題だったのです。
自転車に乗る時も、一度も転ばずに初めから上手に乗れる人はいないでしょう。何度か転ぶうちに次第にコツをつかんで乗れるようになりますね。一度転んだからといって諦めてしまったらだれも自転車には乗れません。何度スリップしても断酒の努力を続けていけば、いつかは必ず断酒継続することができるに違いありません。
「スリップも またバネにして 立ち上がり」

イラスト・成田 富子
(さかもと・たかし 藤代健生病院院長)
(「東奥日報」 2002.12.15 「家庭・暮らし」面「健康」欄に掲載)
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