藤代健生病院が挑戦した精神科における禁煙指導(2ページ目)
初代禁煙外来医師・石川はじめ
喫煙は自分の健康にも他人の健康にも害であることはわかっていても、喫煙者は当り前のように喫煙しながら勤務し、非喫煙者は苦情も言えないで健康障害に耐えていた実態があり、決して恵まれたスタートではありませんでした。喫煙者の反発や非喫煙者のためらいなど、対策にブレーキをかける力はそれなりに大きかったのですが、喫煙の大きな害を考えれば、踏みとどまってはいられません。
そこで、きちんとドアのついた喫煙室を用意し、職員の休憩室を含め、喫煙室以外では喫煙しないルールを定めました。
ごく一部の患者さんや、喫煙対策の必要性を理解できずに、感情のレベルで反応している一部の職員を除いてルールは守られ、3カ月でほぼ徹底されました。
院内の空気はたいへんきれいになり、職員や患者さんの間で、喫煙に関する話題がよく聞かれるようになりました。
禁煙ムードの中、「タバコを吸うな」という幻聴によりタバコを吸うのを休む患者さんも出てきました。月に2回禁煙通信が発行され、喫煙問題について最新の情報が伝えられました。
患者集会での禁煙指導や、喫煙対策委員によるスタッフの勉強会も開かれ、当初反発を感じていた職員にも、喫煙対策および、禁煙支援の重要性が、理解されてきました。職員の2割が禁煙しました。
1996年12月には禁煙外来を開設。自由診療カルテを作り、呼気中一酸化炭素濃度の測定による喫煙状況の客観的な把握、ニコチン依存度テストによるニコチンガムの適否の判定、禁煙の具体的方法のアドバイス等を行ってきました。
その結果精神科の患者さんだからといって、一般の方に比べて、禁煙がそれほど難しいというわけでないという感触を得ました。禁煙指導受診者の8割ほどの人が精神疾患をもっている患者さんですが、成功率は他の施設と大差ないことがわかりました。ニューヨークのグラスマンの研究にあるように精神科の患者さんでも禁煙できないことはないようです。
精神科の患者さんでも禁煙できないわけではなく、逆に自我機能の弱い患者さんは禁煙できる場を整えて禁煙ムードを高めると、素直に努力をなさり、禁煙に挑戦できることがわかりました。
精神科医療が喫煙に対して寛容な態度を取り続ける限り、医源性の難治性のニコチン依存症患者さんが増え続け、精神科の患者さんは精神病の苦しみの他にニコチン依存の苦しみ、更に身体合併症の苦しみを背負って生きることになるでしょう。
タバコを患者さんに残された唯一の楽しみのように容認し、タバコのにおいを精神科の病院のトレードマークのようにしてきた歴史に終止符を打ち、精神科の病院も分煙対策、禁煙支援にもっと積極的に取り組むべき時がきたのではないでしょうか。
海外で売られるタバコのパッケージにはSMOKING KILLSと書かれています。日本では「あなたの健康を損なう恐れがありますので、吸いすぎにに注意しましょう。」とあたかも、吸う本数が少なければ、危険が少ないような錯覚をおこす、嘘の表示がされて売られています。これではだまされるのはあたりまえです。1日も早く精神科の患者さんもニコチン依存の呪縛から解き放たれる日が来ることを祈りつつ、今後は坂本院長の禁煙外来に期待をかけ、私はあおもり協立病院での禁煙外来にがんばります。精神疾患をもつ患者さんの禁煙指導も、どんどん受け付けたいと思います。
(おまけ)

喫煙はストレス解消になるなんて、うそです。喫煙をするといい気持ちになるのは、快中枢を刺激する中毒性の薬物だからです。それは降圧剤を飲んで血圧が下がるのと同じ作用です。ただし、体はちっともリラックスしていません。心拍数や血圧が上がり、心臓に負担が掛かります。快中枢を刺激することで、快感を得られても、1日にほぼ決まった数だけのタバコを吸ってニコチン補給するために喫煙行動を繰り返すストレスはどんなに大きいことでしょう。喫煙による精神作用を正しく評価できるのは本来精神科医のはずです。カウンセリングも精神科スタッフの得意とするところです。その意味でも、精神科においてこそ禁煙指導が発展して欲しいと心から、願っています。