育子さんのこと下(精神科でも喫煙対策を)

 

 今まで大きな失敗や困った出来事を引き起こし、失敗したときにはいつも怒られていた育子さんでしたが、禁煙への挑戦はいつものパターンとは違っていました。

 努力すれば励まされる。失敗しても怒られない。また碩張れば、ばん回できる。そんな場面の中で、育子さんは初めて自分の行動を反省することができました。「振り返る」という望ましい問題解決の行動が芽生え、そのことで人に褒められるという体験をしたのです。育子さんはこの後も頑張りました。禁煙に成功して晴れて精神科の病院を退院し、より自由な場所へと旅立って行かれました。

 禁煙はなかなか難しいことです。でも、たばこがやめられないのはご本人の意志の強さや人格の成熟度とは関係ありません。ニコチンという中毒生の薬物の魔力であり、その魔力にどれくらい支配されてしまうかは、その人の体質や環境によるのです。

 育子さんに限らず、精神的なハンディを持った患者さんにもたばこをやめたい方はたくさんいらっしゃいます。なのにやめられないのは、実は喫煙を容認している精神科の療養環境や薬物との相互作用などの要因も絡みます。社会のゆがみを最もまともに受けて被害を受けてしまうのは、いつの世も社会的な弱者です。

 人が良くて、環境への依存性が高く無防備な育子さんのような患者さんは、自動販売機のはんらんした現代の消費社会の中で自己管理をするという、とてつもなく難しい課題を課せられているのです。

 そんな中で糖尿病、高脂皿症、動脈硬化などから、命にかかわり生活の質を大きく悪化させてしまうような脳卒中、がん、心筋梗塞(こうそく)などの生活習慣病に苦しむことになるようです。

 しかし、精神病の患者さんでも禁煙はできます。医療者側がたばこは精神安定剤であるかのような誤った思い込みを捨て、精神科でも強力な喫煙対策をし、禁煙しやすい環境をつくることが、そんな患者さんを救うことにつながるのです。