「愛子さんの禁煙は成功しているかしら。ニコチンガムでさえ愛子さんの苦しい離脱症状を抑えることができなかったら、愛子さんはもう二度と禁煙に挑戦しなくなってしまうのではないかしら」。わたしは心配でした。
果たして一カ月後、「先生わたし、もう大丈夫。たばこ吸わなくても、何にもつらくなくなりました」。 愛子さんは別人のように顔色もよく、すっきりした表情で診察室に入ってみえました。もう、たばこは要らなくなり、部屋にも大きく「禁煙」の文字を張って、お客さんにも禁煙を勧めている」ということでした。
初めは苦しいかと思ったけれど、たばこが吸いたくて苦しい時期は、ニコチンガムをかむと離脱症状が和らいだことをうれしそうに話してくださいました。また、前もってどんな離脱症状が出るのかを予想できたことで、余裕をもって禁煙できたと愛子さんはおっしゃいます。
一人で頑張っていた禁煙の努力は決して無駄ではなかったのです。離脱症状が予想できたのは、まさに前回の禁煙の練習の成果だからです。
愛子さんはお父さんの遺言、犬への思いやりという、とても愛情あふれた動機を持ちながら、ニコチンという薬物への依存が強いがために、禁煙が難しかったようでした。でもたばこが人を縛り付けるメカニズムを知り、カウンセリングを通してたばこへの思いも十分振り返ることができた愛子さんにとって、禁煙はもはや越えられない壁ではなくなっていました。禁煙に成功したことによって、大切なものを奪っていったたばこを吸い続けている自分への憤りから解放され、自分の中の矛盾の糸が解けたのでした。
愛子さんの表情はたばこの害から自由になつた体が取り戻した健康の力でみずみずしく輝いていました。でも、その日の愛子さんの笑顔をいっそうきれいに見せてくれたのは健康そのものの力より、自分の中の矛盾から解放された心のすがすがしさだったのではと思いました。