『欧州の最近の動向』
この30年間、ヨーロッパ全体で精神科ケアの全体的概念が変化してきました。大規模でしばしば孤立した施設から小規模で地域に根差したより統合的なサービスヘと徐々に置き換わりつつあります。例えば英国やオランダのような国々では施設型ケアおよび病院を基礎としたケアをやめて、さまざまな種類の地域ケアが70年代のはじめから始まりました。人口あたりの精神病床数はアイルランドのような国では高いのですが、英国ではこれを近いうちにさらに人口1,000人にたいして0.3床から0.5床まで下げようとしています。ただ現実的にはこうした目標を短期的に多くのヨーロッパ諸国で達成することは不可能だと思われます。
その理由は最近になり脱施設ケアのペースが下がっているからです。にもかかわらず、上に述べた精神科ケアの全体的概念の変化はは進行しつつあり、病院内でのケアの重要性は低下し、かわりに地域内のサービスはますます広がっています。そして大規模な施設が消滅するに伴い、精神障碍をもつ人々のための地域内での社会的な受け皿が必要となります。これは余暇を過ごしたり居住する設備を拡充することだけでなく、とりわけ職業的な訓練や就労の分野での施設を拡充することが大切です。
欧州全域では現在、失業問題という深刻な問題を抱えており、これは精神障碍をもつ人々あるいはかつて患者であった人々にとってはとりわけ大きい打撃となっています。特に1970年代には欧州各国で保護作業所が急増しましたが、そこで働く人々の大部分は障害をもつ人ではなく長期にわたって失業し社会から排除されていた人々でした。作業所の定員は失業者で占められ、障害をもつ人々の新規入所が受け入れられなくなり、特に精神障害をもつ人々にとってこのことは打撃となりました。というのは、精神科ケア・システムが脱施設化の方向に変わることにより、彼らの多くが地域で生活し仕事を探していたからです。最近の調査によると、かつて精神科で治療を受けていた人々の失業率は80%にのぽっています。ということは、かれらの社会的統合の最大の問題は明らかに就労という分野のあるということです。
CEFECのこれまでのすべての経験によっても精神障碍をもつ人々にとって仕事と就労は非常に重要です。精紳科治療の歴史をみても仕事それ自体が精神疾患にたいしてリハビリテーションとしての効果をもっていることを示しています。この数世紀のあいだ仕事が精神科治療のうちで最も重要で成果のあがる方法のひとつとして利用されてきたのは決して偶然ではないのです。
こうした理由によって仕事は精神疾患から社会へ復帰する道を代表しており、たとえば仕事によって社会的地位や自分が何物であるかも決まってくるのだと言えると思います。
あるいは仕事をすることによって毎日や毎週のきまったリズムを得ることができます。
我々の社会では仕事こそが生活の中心にあり、私たちに内面的にも外面的にも安定感を与えてくれるのですが、これはとりわけ精神障碍をもつ人々にとってもっとも大切なことでもあるのです。
患者としての役割から労働者としての役割に自分が変わるということが結び付いているがゆえに、精神科リハビリテーションにおいて仕事は中心的な要因なのです。
以上をまとめると、欧州では精神障碍をもつ多くの人々が地域の受け皿の中でケアされなければいけないにもかかわらず、彼らの失業率は仕事が社会的統合にとって決定的な要因であるにもかかわらず、きわめて高いのです。
そこでこうした問題の解決のために地域のなかでソーシャルファーム(自立型の企業)がヨーロッパ全域でつくられてきました。
こうした試みには三つの異なった方向性があります。
まず一つ目の方法は、社会的に自立した企業あるいは協同組合をつくって精神障碍をもつ人々に仕事を提供しようというもの、二つ目は既存の保護作業所を転換し施設化した側面を改めようというもの、三つ目の方法は一般企業に現に働いている人々やこれから就労しようとする人々にたいして心理的ケアと経済的援助を行う方式をつくるものです。
職業上の統合をめざすCEFECの戦略
以上に述べたような状況を踏まえ、問題解決のアイデアや経験の交換のためにCEFECがヨーロッパ全域にわたる組織として結成されました。政治的なレベルで言うと、CEFECが作った「精神障碍をもつ人々のための働く権利の章典」は欧州議会で採択され、欧州議会は各国政府にこの章典の内容を実現するように勧告し、各国政府はこの「章典」の内容の進捗度合いを欧州議会に報告するように義務づけられました。
そしてさらにCEFECはヨーロッパ全体で障害をもつ人々の職業的統合のプログラムをつくるべく運動をすすめています。
CEFECが行っている原則的なアプローチは地域内サービスと病院施設との間の連続性を保つ、つまり病院と一般労働市場とのあいだのギャップを埋めることにあります。
そして身体障害をもつ人々の場合には適切な訓練を得てその障害を代償できていますが、精神障碍をもつ人々においてはもっと特別の支援が必要となります。とくに長期罹病の患者さんや頻回に入院している人、あるいは薬物を継続して服用している人々にとってはこのことが必要です。
CEFECが発展させてきたこうしたアプローチを要約しますと、医学的治療、およびソーシャルファームに働いて就労準備プログラムを受けること、そして−般企業での就労を目指してカウンセリングやケアを保証しつつ職業紹介することとのあいだの連続性をもたせることです。
すべての患者がこうした流れに沿って進むわけではありませんが、できる限りの社会的統合にむけて励まし、個人の発達に必要な条件を整備するためには、こうした包括的なサービスを用意することが必要だと私たちは考えています。
このために、病院や地域を基盤とした就労準備や、長期の就労と密接にリンクした地域内での職業訓練プログラムが必要です。精神障碍をもつ人々にとっては、職業リハビリテーション分野にみられるような、センターを基盤として「訓練と職業紹介」を行うという伝統的なモデルはあまり効果がないからです。
私たちが訓練と就労とが一体となったモデルを追求しているのはこういった理由によります。つまり就労している現場で同時に訓練を受けたり、訓練を受けていながらそれが同時に実際的な就労経験となるような新しいモデルが必要なのです。
CEFECが職業訓練に力を入れているのはなぜかといいますと、障害をもつ人々が一般労働市場に統合されにくいのは、精神疾患によるばかりでなく職業上の資格がないことにもよるということが明らかになったからです。
いっぽう訓練と就労とのあいだの移行をスムーズにしていくことも重要ですが、保護的な就労からソーシャルファームでの就労、援助つき雇用、そして完全に統合された就労へと、幅のある就労形態が準備される必要があります。
援助つき雇用というのは、雇用主は財政的に補助を受けつつ、労働者は一般就労の枠組みの中で心理学的な援助をうけけられるような雇用関係のことです。