茨城県取手市中妻貝塚出土の骨角器(動物考古学第3号より)


 中妻貝塚より出土したこの資料は、シカの左側中手骨に刻みのあるものである。骨に刻みが施される場合、解体痕であったり、加工品の未完成品であることが多い。しかし、この例は、刻みが両測縁に2カ所施されているだけではなく、近位関節面と後面を平坦になるまで研磨していることが特徴である。シカの中手骨と中足骨は、加工品に用いられることが多い部位であり、この資料も原材の可能性もある。しかし、関節面や後面を内部の海綿体が露出するほど研磨した例はこれまでに知られておらず、単なる未製品とは思われない。その研磨の意図を推測すると、後面を平面上に置きやすくすることと、関節面と後面の成す角度を直角にすることなどが考えられる。その場合、両測縁の刻みは何らかの目印の可能性がある。そのように考えると、この中手骨の用途は、一種の定規ではなかったかと推測される。長さの単位は、「尺骨」という名称の骨があるように、腕や足や指などの身体の一部を利用して単位とすることが知られている。その点で、このような骨に刻みを付けて、定規とした可能性がある。なお、線刻の感覚と近位部関節面の長さは図の左側(骨の内側)で約6.5cm、右側で約6.5cm、線刻間は左側で約5.5cm、右側で約5.5cmであり、左右の両面ともにほぼ同じ長さである。     (西本豊弘)